5-1.上手に漢方を使ってみよう:web版

良導絡―自律神経調整法の基礎知識

第5章 体質を変える漢方療法と食事:web版

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5-1.上手に漢方を使ってみよう

◯5-1-1.漢方薬でセルフ・メディケーション

 漢方薬というとみなさんはどんなイメージをお持ちでしょうか?カゼのひき始めに飲む葛根湯?おばあちゃんがコトコト土瓶で煎じる煎じ薬?どちらも漢方薬ではありますが、いずれにしてもちょっと普段飲むには縁遠いイメージですね。

 ところが、漢方薬は現代の女性にとても相性のよいものなのです。なぜなら、女性特有の症状(生理痛・生理不順・月経前症候群・不妊・更年期障害)や、女性に多い悩み(肩こり・冷え症・むくみ)などに、体に負担なく効き、なおかつ効果が実感しやすいものだからです。さらに、病院に行くほどでもない症状や、病院に行って検査しても異常なしといわれてしまうような体の不調に、鍼灸と同じく効果が期待できます。

 漢方薬と鍼灸というのは、東洋医学という伝統医学に基づく治療法のいわば車の両輪のようなものです。治療の方法は違えど、その基本となる考え方や診断方法は元が同じなのです。元々、漢方医といわれる漢方のお医者さんは、鍼灸も漢方薬も出来て一人前といわれていました。そのため、鍼灸と漢方薬を合わせて治療すれば一層効果が期待できます。

 日々感じるちょっとした体の不調に自宅で出来ることはないでしょうか?漢方薬は自宅で毎日毎日飲めるというのが特徴です。まさに、自分の体は自分で治す「セルフ・メディケーション」にぴったりなのです。


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◯5-1-2.西洋薬と漢方薬の違い
 〜西洋薬はスパルタコーチ、漢方薬はほめて伸ばすコーチ〜

 西洋薬と漢方薬はどう違うのでしょうか?わざわざ漢方薬を使う意味はどこにあるのでしょうか?それは、ひとことでいえば効き方が違うのです。いくつか例をあげてみましょう。

 まず、高血圧の場合、西洋薬は全身の血管が狭まっているので、血管自体を拡げることで血圧を下げようとします。一方、漢方薬は、全身の血管を緊張させて狭くしている元の原因の、体の緊張をゆるめようとします。貧血の場合だと、西洋薬は不足している材料の鉄分を直接補います。漢方薬には、材料の鉄分はそんなに入っているわけではありません。体の造血機能を引き上げようとするのです。女性の更年期障害の場合でも、西洋薬は減ってきた女性ホルモンを直接補充します。漢方薬の場合は、女性ホルモンの生成を促すようにするだけです。

 どうでしょうか?同じ目的でもだいぶアプローチの方法が違っているのがわかると思います。簡単にいうと、西洋薬は足りなければそれを直接補う、悪いところがあれば直接その場所を治すという直接的な方法です。一方、漢方薬は足りなければそれを作る元のところを刺激する、悪いところがあれば元となった原因の場所を治すという間接的な方法です。例えていえば、西洋薬はビシビシ鍛えるスパルタコーチタイプで、漢方薬はほめて伸ばすコーチタイプといえるでしょうか。

 この違いは、薬を飲んだ感じにも表れます。漢方薬の方がなんというか、 ”気持ちよい” のです。先ほどの例でいうと、高血圧の西洋薬は血圧を下げる力は強力です。強引に血管を拡げるので、量が多すぎると血圧が下がりすぎてしまいます。一方、漢方薬は、血管を狭くしている緊張をゆるめるだけなので、血圧が下がりすぎるということはありません。貧血の場合も、西洋薬は不足した鉄分を直接補います。その量は食物とは比較にならない量なので、しばしば胃にもたれます。漢方薬では、低下している造血作用を刺激することで、血を補充させようとします。そのため、貧血検査では正常なのに、漢方では血が不足している血虚(けっきょ)という状態までも、しばしば改善させることができます。同じように、更年期障害では西洋薬は女性ホルモンそれ自体を補充するので、量の調節や期間の調節が大変難しいのです。薬の量が多すぎれば女性ホルモン過剰の症状が出るし、少なければ効きません。また、ずっと補充し続けるわけにはいかないので、徐々に薬の量を減らさなければいきませんが、そのときの調節も人工的に行うのは大変難しいのです。一方、漢方薬は弱ってきた女性ホルモンを作る作用を刺激するだけです。それによって女性ホルモンは増えるでしょうが、直接補充したわけではないので、あくまで自然の範囲内です。そして、漢方薬を飲み続けたままで、年齢とともに自然と女性ホルモンを作る能力がゆるやかに減っていきます。まさに、自然と更年期が過ぎていくのです。

 この漢方薬の効きの気持ちよさは、しばしば「漢方薬は効きがマイルドだ」といわれる所以(ゆえん)かもしれませんが、効き目が弱いということではないのです。くずれたバランスが元に戻る、自分の体が自然に治していく、というのが漢方薬の効き方です。後ろからそっと見守って励ましてくれる母親のようなものでしょうか。自分の力で何かできると誰でも気持ちよいですよね。みなさんもぜひ、この漢方薬の気持ちよさを味わってみてください。


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◯5-1-3.漢方薬の考え方

 漢方薬は東洋医学の考え方で作られています。その大きな特徴は、冷えていれば温め、熱があれば冷ます、気(き)が足りなければ補い、滞っていれば流す、血(けつ)が足りなければ補い、滞っていれば流す、水分が足りなければ補い、水分代謝が悪ければ水はけをよくする、という考え方です。簡単にいえば、体のバランスを気・血・水の不足と過剰(滞り)、あるいは冷えと熱でとらえ、バランスがくずれていればそれを元に戻してあげるのです。これは鍼灸でも同じです。さらに細かくは、鍼灸では経絡(けいらく)の流れを重視しますが、漢方薬では内臓の働きを重視していきます。


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◯5-1-4.自分に合った漢方薬を手に入れるには

 漢方薬を飲もうと思ったけれど、一体どこへ行けばよいのでしょうか?いまやドラッグストアーなどでも、売り場の棚に漢方薬はたくさん並んでいます。その中から、今あげた漢方薬や、あるいは雑誌などで見かけた「◯◯の症状にはこの漢方薬」というのを参考に、エイヤッと選びますか?

 さて、そのように選んだ漢方薬は、どれくらいご自分に合っているのでしょうか?実のところ、「分からない」というのが正直なところです。というのは、漢方薬は症状だけでなくその人の体質も含めて総合的に判断して選ぶからです。それをよく「証(しょう)に合わせる」といいます。そのため、症状だけから漢方薬を選ぶと、うまくいけばその人に合うし、逆にその人には合わない漢方薬だったということも起こりえます。よく、「漢方薬がすごく効いた」、あるいは「漢方薬は全然効かなかった」と両極端にいわれることが多いのは、このことと関係しているのではないでしょうか。

 そのため、漢方薬を選ぶには、できれば漢方専門の薬局・薬店で相談して頂くのがよいでしょう。漢方薬局では、詳しく症状や体質を調べて、一番合う漢方薬を選んでくれるはずです。また、漢方薬だけでなく、症状についての悩み、生活習慣の改善、食事指導なども相談にのってくれると思います。


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◯5-1-5.本当にぴったりの漢方薬を見つける

 漢方薬は鍼灸と同じ東洋医学が源になっているとさきほど述べました。さらに、診断方法も基本は同じです。そのため、本当にぴったりの漢方薬を選ぶには、鍼灸の考え方、診断方法も取り入れなくてはいけません。

 鍼灸で重視するのは、経絡の流れです。具体的にはその中を流れる、「気」の巡り、滞りを重視します。この考え方を取り入れて漢方薬を選んでくれるところは、まだ少ないようです。しかし、気の流れまで考えて漢方薬を選ぶと、驚くほど効果を発揮することが分かってきました。


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◯5-1-6.本当にぴったりの漢方薬の選び方

 症状を伺って、さらにいろいろな診断法から得られたその人の体質を総合して、漢方薬を選んでいく、というのがいままで述べて来た一般的な漢方薬の選び方です。普通、何種類かの漢方薬が候補にあがります。その中から、最終的にどれを選ぶかは、深い経験と幅広い知識が要求されるといわれてきました。

 しかし、気の診断法をそこに取り入れると、候補にあがった漢方薬の中で、どれがその人に一番合っているか判断できるのです。ときには、候補の漢方薬のどれもがぴったり合わず、別の漢方薬の方がその人にはぴったりだった、ということも起きます。なぜそんなことが起きるのでしょうか?

 漢方薬を選ぶ基準というのは、基本的にはいままで積み重ねて来た何百万何千万人という数えきれない患者さんからの経験です。その経験やそこから導きだされた理論をまとめた物が書物として中国や日本で古くから伝えられて来ました。ところが、目の前にいるあなたがその経験側にぴったりあてはまるとは限らないのです。

 そんなことがあり得るのでしょうか?漢方薬の理論は何千年前から確立されているのでは?と思うかもしれません。ここで、同じ成り立ちの鍼灸の話しをしたいと思います。鍼灸ではツボといわれている鍼やお灸をすると効果がある場所が300以上あるといわれています。ツボの位置は書物にきちんと書かれています。ところが、現実に鍼灸院で鍼やお灸をする場所は、その書物に書かれている位置とは違うことが多いのです。

 これは、なにもその鍼灸師がいい加減だというわけではありません。ほとんどの鍼灸師は目の前にいる患者さんの状態を見て、触れて、感じて、一番ぴったりの場所に鍼やお灸をしているのです。そのとき、書物に書かれているツボの位置はあくまで目安に過ぎません。さらにいえば、書物には書かれていない場所に鍼やお灸をすることもしばしばあるのです。それもこれも、目の前にいる現実の患者さんがよくなることが一番で、書物に書かれていることはあくまでも参考だからです。

 どうも、これまでの漢方薬選びにおいてはこの最後にその人に合わせる、という最後の詰めが少し足りなかったのかもしれません。これは、気の診断法(気診、フィンガーテスト法など)があまり広まっていない、(昔はあったがいつのまにか廃れてしまった?)のと関係があるのかもしれません。

 これからは、ぜひ、本当にぴったり合った漢方薬を飲んでいただきたいと思っています。


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