5-2.あなたに合った漢方薬が決まるまで:web版

良導絡―自律神経調整法の基礎知識

第5章 体質を変える漢方療法と食事:web版


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5-2.あなたに合った漢方薬が決まるまで

◯5-2-1.漢方薬を選んでいく手順

 ここで、一般的な漢方薬を選んでいく大きな手順を紹介しましょう。この手順の中に漢方薬の奥深さ、神髄がひそんでいます。ただし少し難しいので、早くどんな漢方薬を飲めばよいか知りたい、という方は最初は飛ばしてもらってもかまいません。では、始めましょう。

 漢方薬は西洋医学とは全く違う東洋医学の診断法、考え方で選んでいきます。それは、大きくまとめると、四診(ししん)→弁証(べんしょう)→論治(ろんち)→漢方薬という流れになります。なにやら、聞き慣れないことばが出てきましたね。でも、すごく難しいことでもありません。ひとつひとつ説明していきましょう。


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◯5-2-2.四診(ししん)

 まず、四診(ししん)というのは東洋医学でいう診察法です。四診には、望診(ぼうしん)、聞診(ぶんしん)、問診(もんしん)、切診(せっしん)があります。望診というのは、望むという字があらわすように、目で見て診断することです。患者さんが診察室に入ってきたときの歩き方、体格、表情の観察から始まり、目の前に座ったときの姿勢、顔色、さらには舌をよく観察します。この、舌の形や色・苔の状態を観察することは、東洋医学独特の診察法で、「舌診(ぜっしん)」といいます。これは、体調チェックに使えるので、後ほどやり方を詳しく説明します。望診は東洋医学では、特に重視されている診察法です。

 聞診(ぶんしん)は、耳や鼻による診察法です。患者さんの話し声の大きさや発音、呼吸するときの音、口臭や体臭などもチェックします。

 問診(もんしん)は西洋医学の問診に相当します。患者さんに問いかけることで、患者さんからの情報を集めます。

 切診(せっしん)というのは、西洋医学の触診に似ています。脈をとってみたり、おなかを触って固いか柔らかいか、痛いところがないかなどを調べます。脈をみる「脈診(みゃくしん)」というのも東洋医学独特のもので、西洋医学のように脈拍数や不整脈をみるだけではなく、脈を打つ強弱、リズムなどから病気の部位、強弱、内臓や経絡の状態などまで細かく診ていきます。切診は鍼灸では特に重要な診察法です。


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◯5-2-3.弁証(べんしょう)

 このように、四診で集めた患者さんの情報をもとにして、分析・総合して病気の見立て=「証(しょう)」を決めることを弁証(べんしょう)といいます。証というのは、その人の症状、心身の状態、体力や体質、病気の性質などを総合して、東洋医学的に表現したものといったらよいかと思います。

 この、証を決める弁証が、東洋医学の診察の中心となるので、いろいろな弁証方法がそろっています。たとえば、「八綱(はちこう)弁証」、「気血津液(きけつしんえき)弁証」、「臓腑(ぞうふ)弁証」、「病因(びょういん)弁証」などがあります。詳しくは後ほどまた紹介します。


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◯5-2-4.論治(ろんち)

 決まった証に対して、治療方針を立て、治療法を選び、漢方薬を決めていくのが「論治(ろんち)」です。

 漢方の治療法には大きく分けて八つの方法があります。この八つとは、汗をかかせる「汗法(かんぽう)」、吐かせる「吐法(とほう)」、便で出させる「下法(げほう)」、調和させる「和法(わほう)」、温める「温法(おんぽう)」、熱をさます「清法(せいほう)」、不要物を消し去る「消法(しょうほう)」、不足を補う「補法(ほほう)」のことで、証によって使い分けます。

 最後に生薬の組み合わせを考えて、その人のその時の症状、体質、気候に合わせて漢方薬を作っていきます。ですので、基本的に漢方薬は、オーダーメイドの世界です。中の生薬の量も微妙に調節して調合し、それを煎じて飲むことが行われてきました。ただし、最近では簡便さを求めて、あらかじめエキス剤、錠剤、丸剤などの形に作ってある、出来合いの処方(組み合わせ)の中から選ぶことも多くなってきました。


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◯5-2-5.「証(しょう)」を決めるには?

 ここで出てきた「証」というのが、東洋医学独特のものなので、もう少し詳しく紹介しましょう。先ほどの弁証の説明で、証を決める弁証には何種類かある、というお話しをしました。その中で代表的な「八綱(はちこう)弁証」、「気血津液(きけつしんえき)弁証」、「臓腑(ぞうふ)弁証」を取り上げて、証の決め方やどんな証があるのかを紹介します。


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◯5-2-6.八綱弁証(はちこうべんしょう)

 証を分類する一番基本的なものが八綱弁証です。これは、体の状態を大きく八つに分けるやり方です。それは、表(ひょう)と裏(り)、寒(かん)と熱(ねつ)、虚(きょ)と実(じつ)、陰(いん)と陽(よう)の八つです。表裏(ひょうり)は、病気が浅いか(表証(ひょうしょう))、深いか(裏証(りしょう))という位置の区別です。寒熱(かんねつ)は、病気が寒性のものか(寒証(かんしょう))、熱性のものか(熱証(ねつしょう))という性質の区別です。虚実(きょじつ)は、病気の勢いが強いか、あるいは過剰なものがあるか(実証(じつしょう))、体の抵抗力が弱っているか、あるいは不足しているものがあるか(虚証(きょしょう))という勢いの区別です。陰陽(いんよう)はこれら六つの証を総合したもので、表・熱・実が陽証(ようしょう)で、裏・寒・虚が陰証(いんしょう)となります。このあたりの区別は、日本独自の表現方法をする流派もあり、本によって多少違うこともあります。


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◯5-2-7.気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)

 次の気血津液弁証ですが、その前に気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)についての説明が必要ですね。東洋医学でいう「気(き)」とは、体の機能や働きのことをすべてまとめていっています。「血(けつ)」は、ほぼ血液と考えてよいでしょう。「津液(しんえき)」は体の水分のことです。

 そして、体を流れる時には、気は経絡(けいらく)、血は脈管(みゃっかん)、津液は三焦(さんしょう)という通り道を流れていきます。気・血・津液とも、体に必要なものですが、滞ったり、過剰にありすぎたり、不足すると病気になります。

 さて、気血津液弁証では、気・血・津液それぞれについて、過剰(実(じつ))と不足(虚(きょ))をみていきます。気の滞り・過剰は「気滞(きたい)」、不足は「気虚(ききょ)」といいます。血の滞り・過剰は「血瘀(けつお)」、不足は「血虚(けっきょ)」といいます。津液の滞り、過剰は「痰湿(たんしつ)」、不足は「陰虚(いんきょ)」といいます。また、気虚(ききょ)が進行して、体が冷えてきた状態を「陽虚(ようきょ)」といっています。


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◯5-2-8.臓腑弁証(ぞうふべんしょう)

 最後に臓腑弁証(ぞうふべんしょう)の話しをしましょう。「五臓六腑(ごぞうろっぷ)にしみわたる」なんていう言葉もありますが、これは漢方から来た言葉です。五臓(ごぞう)は、肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)・肺(はい)・腎(じん)で、六腑(ろっぷ)は、胆(たん)・小腸(しょうちょう)・胃(い)・大腸(だいちょう)・膀胱(ぼうこう)・三焦(さんしょう)です。これらはそれぞれペアになっていて、肝と胆、心と小腸、脾と胃、肺と大腸、腎と膀胱がペア同士です。三焦は少し特殊で心包とペアなのですが、漢方ではあまり使わないようです。それぞれ、さきほどの表裏の関係になっていて、臓が裏、腑が表になります。

 臓腑(ぞうふ)の名前というのは、現代でも使う西洋医学の名前と同じですが、意味は少し違います。東洋医学の臓腑は、それぞれの代表する働きと考えた方が、現代の私たちにはピッタリくるかもしれません。大ざっぱにいえば、「肝(かん)」は肝臓を含む血液貯蔵系・自律神経系、「心(しん)」は心臓を含む循環器系・精神系、「脾(ひ)」は消化器系、肺は呼吸器系・皮膚、「腎(じん)」は泌尿生殖器系・免疫系・ホルモン系でしょうか。

 そして、それぞれについて、過剰か(実(じつ))、不足か(虚(きょ))をみてくのが臓腑弁証です。細かい証(しょう)の名前はここでは省略します。


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◯5-2-9.いろいろな「証(しょう)」

 このようにみていくと、ある人の証(しょう)とはいっても、いろいろな表現ができることがわかります。たとえばその人の証は、寒証(かんしょう)であり(八綱弁証(はちこうべんしょう))、気虚(ききょ)であり(気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう))、腎虚(じんきょ)である(臓腑弁証(ぞうふべんしょう))わけです。このいろいろな弁証法のなかで一番ぴったりな物差しを使って、あるいは組み合わせて、その人の今の状態を表すようにするのです。


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◯5-2-10.21世紀は漢方薬の時代

 以上、漢方薬を選んでいく手順と証について説明しました。いかがだったでしょうか?一見、この科学の発達した21世紀に、原始的ともいえる方法で診断し、原始的な生薬を使って治療する漢方薬が消えてなくならないのは不思議なものです。

 ところが、21世紀になって世界中で漢方薬・鍼灸が代替医療として大きな注目を浴びているのです。特に、西洋医学の中心地である欧米で、医療の一部を担うまでになってきました。これは、西洋医学が行き詰まったということではなく、人間の体をもっと幅広い視点で見ていこうという流れが出てきているのだと思います。

 「漢方薬は古くさい」と思っているのは日本だけ、などとならないよう願っています。

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