5-5.食事に漢方の考え方を:web版

良導絡―自律神経調整法の基礎知識

第5章 体質を変える漢方療法と食事:web版


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5-5.食事に漢方の考え方を

◯5-5-1.漢方からみた食事

 毎日の食事が健康に大きく関係することは、みなさんも実感をもっておられると思います。現代の食事の考え方はカロリー、栄養素を中心とする考え方です。それに対して、漢方はまた少し違った見方をします。ひとことでいえば、薬膳の世界といえるでしょうか。いわゆる、医食同源、薬食同源という考え方です。それは、今日から使える実用的で、いままで思いもしなかった魅力的な世界です。この漢方の食事に対する考え方をちょっとご紹介しましょう。

 まず、初めに漢方薬の中身を見てみましょうか。意外にもその材料は食べ物と同じ物が多いのです。例えば、カゼの初期によく使われる葛根湯(かっこんとう)。先ほど紹介したように、葛根(かっこん)はくずの根でしたね。さらに生姜(しょうきょう)も文字通りショウガ。桂枝(けいし)はシナモンの枝の部分です。大棗(たいそう)は甘いナツメの実です。さらに甘草(かんぞう)は天然の甘味料として、醤油などに使われています。

 このように食材として料理に使われているような材料も漢方薬には多く使われています。そして東アジアの国々では、今でも薬膳とわざわざいわないまでも、ちょっと体調の悪い時に体を整える食材を取り入れることが自然と行われています。つまりふつうの食材も、効能を吟味して治療に使えば薬となるし、食べ物として使えば薬膳となるのです。元々、漢方には食事と薬に大きな区別はなかったのです。


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◯5-5-2.寒熱のバランスをとろう

 まず食べ物を見るとき、漢方で特徴的なのは、それが体を温めるか、体を冷やすかという寒熱で分類することです。これは、現代の栄養学ではほとんど着目していないポイントです。

 みなさんも、たいして暑くない日にアイスクリームなどを食べて、お腹を下した経験があるのではないでしょうか?

 食物繊維をとらなければと、毎朝野菜ジュースを飲んでいる方がいます。朝、排便がつくようになったので、続けている。でも、なんとなくお腹が冷えるし、かえって下痢っぽい感じがする。これなどは冷たい野菜ジュースでお腹が冷えて下痢しているだけかもしれません。

 風呂上がりのビールは欠かせないという方も多いでしょう。たしかにうまい。でも、そのあと喉がかわいたり、お腹が冷えたりしないでしょうか?夏の暑い日のビールはいいでしょうが、冬の寒い日や、夏でも冷房の効いた部屋に一日中いて体が冷えているのに、わざわざ冷えたビールというのは考えものです。

 また、逆に辛いエスニック料理が大好きで、毎日食べている人もいます。辛ければ辛いほどよい、というのです。辛さは確かにクセになります。しかし、それが続けば胃腸に負担をかけ、体に熱がこもりやすくなります。体に熱がこもると、イライラしやすくなったり、湿疹や吹き出物のように皮膚に症状が表れやすくなります。


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◯5-5-3.もっと体を温めて

 日本人は生もの、冷たいものを食べすぎだと、中国から来た人からはよくいわれます。これらはみな体を冷やす作用があります。さらに、服装。ファッション性の高い服装は、丈が短かかったり、素足だったり、下半身がおろそかになりがちです。そこに真冬の寒風はもちろん、いやかえって真夏のエアコンの冷気で足腰は一年中冷え冷えしがちです。さらには湿度の高い日本の気候と相まって、全体的に日本人は胃腸の弱い方が多いようです。

 そういう方がいたら、今日からぜひ、温かいもの・火の通った物を食べるように心がけてみてください。それだけで、あなたの体は変わっていきます。温かい食べ物どころか、温かなお湯でさえ、体が冷えている時にはりっぱな薬膳です。のどが乾いたら、お湯を。むしろ、コーヒーや紅茶など余計なカフェインなど入っていない方がよいくらいです。


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◯5-5-4.体を温める食べ物、冷やす食べ物

・体を温める(温(おん)、熱(ねつ)の性質の)食べ物には次のようなものがあります。

 玉ねぎ、ネギ、ニラ、ショウガ、ニンニク、らっきょう、かぼちゃ、栗、桃、コショウ、唐辛子、サンショウ、シナモン、梅、お酒。


・体を冷やしも温めもしない(平(へい)の性質の)食べ物には次のようなものがあります。

 ニンジン、大豆、枝豆、黒豆、山芋、トウモロコシ、ジャガイモ、ブロッコリー、キャベツ、白菜、ごま、クルミ、さんま、さば、ぶどう。


・体を冷ます(涼(りょう)、寒(かん)の性質の)食べ物には次のようなものがあります。

 きゅうり、なす、ほうれん草、セロリ、大根、レンコン、そば、豆腐、ごぼう、トマト、スイカ、バナナ、梨、柿。


 どうでしょう?ふだんの食事が、温めるもの、冷ますものに偏りすぎていないでしょうか?冷やしも温めもしない食べ物を基本にして、寒熱それぞれの食べ物をバランス良くとるのがよいでしょう。

 また、調理法によっても食べ物の寒熱は変わります。冷やしたもの、生のままのものは、食材を冷ます方向へ変えます。逆に温めたもの、火を通したものは、食材を温める方向に変えます。ですので、冷ます食材が多いと感じたら、生で食べず、火を加えて食べるなどの工夫をしてみてください。

 最後にひとつ、食べ物の寒熱についての原則を覚えておいてください。これを覚えておけば、上の分類をいちいち覚えている必要はありません。その原則とは、暑い地方でとれる食べ物は冷ます、寒い地方でとれる食べ物は温めることが多い、ということです。季節でいえば、暑い季節にとれる食べ物は冷ます、寒い時期にとれる食べ物は温めることが多い、ということです。例外はありますが、大ざっぱにこの食材はどうかな?と思ったときに応用してみてください。


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◯5-5-5.五色のバランスをとろう

 漢方ではもうひとつ、食べ物を五つに分類する方法があります。その五つの分類とは、五つの味であり、五つの色であり、最終的には五つの内臓に対応しています。五つの味というのは、酸っぱさ・苦さ・甘さ・辛さ・しょっぱさです。これを色に対応させるとそれぞれ、緑(青)・赤・黄(茶)・白・黒です。これらは、それぞれ内臓でいうと肝(かん)・心(しん)・脾(ひ)(胃腸)・肺(はい)・腎(じん)となります。

 それぞれに属する食材をあげてみましょう。

・酸味(緑;肝);梅、レモン、酢。

・苦味(赤;心);ゴーヤ、お茶、ピーマン、パセリ。

・甘味(黄;脾);米、牛肉、山芋、栗、バナナ。

・辛味(白;肺);玉ねぎ、ネギ、ショウガ、ニンニク。

・しょっぱ味(黒;腎);カキ、イカ、ハマグリ、ワカメ、昆布。


 味と色がうまく対応していない食材もあるかと思いますが、ここではあまり細かいことにはこだわらないでいいでしょう。料理をパッと見て、五つの色があるか、一つの色に偏っていないかのチャックに使っていただければ充分です。さらに味を思い浮かべて、五つの味がそろっていれば完璧です。

 食事だけでなく、デザート・おやつなど、口にするもの全部を一日トータルで考えてみてください。おやつ類で甘味に偏っていませんか?甘味は脾(胃腸系)を傷めますよ。


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◯5-5-6.漢方の基本はバランス良く

 いかがだったでしょうか?現代の栄養学のように、脂質・糖質・タンパク質などという分類とは全く違って驚かれたかもしれません。いずれにせよ大切なことは、偏った食事にしない、という大原則です。

 さらに、五色の食材が内臓に関連することを応用して、疲れている内臓に対応すする食材を選ぶようになると、本格的な薬膳に発展していきます。ここでは、そこまで説明できませんでしたが、ご興味あればぜひ活用してみてください。


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◯5-5-7.その食べ物、ここで採れますか?

 現代の日本ではあらゆる食材、あらゆる料理が手に入ります。例えば朝食はパンにバター、ベーコンに牛乳とバナナ、昼食はカレー、夕食は中華ということも決してめずらしいことではありません。でもちょっと待ってください。

 現在では食料の大部分は輸入に頼るようになっています。それでもそれが元々は日本に育っていた食べ物なのか、少なくとも日本で育てられる食べ物なのかというのは重要なことだと思います。

 パンに使われる小麦。日本ではパン用の小麦はほとんど採れません。どちらかというとうどん用の小麦です。小麦はもっと乾燥した地域に適した穀物です。牛乳やバターなどの乳製品は北ヨーロッパの緯度の高い涼しい高地で発達した食材です。バナナはいうまでもなく熱帯の果物。今でも本州ではうまく育ちません。カレーに使われる多くのスパイス。これも東南アジアなど熱帯地方の香辛料です。ヨーロッパで育てようとしてもできないのは、古くは同じ重さの金と交換したくらい、はるばる東南アジアから帆船で運んでいた歴史を思い返せば明らかです。また、ベーコンなど肉類も日本では明治時代までほとんど食べてきませんでした。


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◯5-5-8.その食べ物、いま採れますか?

 食べ物の旬を味わう、ということも薄れてきました。ハウス栽培や外国からの輸入で、一年中同じ食材が手に入ります。真冬にトマトやスイカだって手に入ります。さらに、冷蔵庫に長期保存できるようになりました。でも、それって不自然だと思いませんか?夏には夏とれる食べ物、冬には冬とれる食べ物を人間はずっと食べてきたのです。旬の時期の食材が、一番栄養価が高いし、なにより味がよいのはみなさんもご存知ですよね。


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◯5-5-9.日本には日本にあった食事スタイルを

 今では生まれたときから当たり前のように食べている食材・料理の多くは、日本で食べ始めたのは明治以降のせいぜい百年くらい前のことです。一方、伝統的な日本食は、何万年も前から日本で採れる食材を使って作り出してきた料理です。世界各地で生まれた伝統食はみな同じことです。その結果、体の内臓の作りも各地域の食生活に合うように変わってきているのです。日本人と欧米人では、足の長さが違うだけでなく、腸の長さも違います。日本人は腸の長さが長く、肉を消化する酵素、牛乳を分解する酵素の出る量が少なく、さらには血糖値を下げるインスリンホルモンのようなものまで少ないのです。

 この内臓の違い、消化酵素の違いは簡単には変えられません。これから何万年か欧米スタイルの食事を食べ続ければ、いずれは欧米人のような肉食に適した内臓に変わっていくかもしれません。でも、昨今の日本食ブームをみると、逆に欧米人の方が数万年後には腸の長さが長くなっているかもしれませんね。

 いまでは服装というと、和服から洋服にすっかり変わりました。でも、定着したように見える洋服というスタイルですが、本当に日本人に似合っているでしょうか?ファッション誌の多くのモデルがいまだに欧米人が多いのは、やはり洋服には手足の長い方が似合うからではないでしょうか。逆に、和服を着たとき、何ともいえない落ち着く感じを感じないでしょうか?和服を着た欧米人の方は、残念ですが長い手足が逆に和服のバランスをくずしているように感じます。ファッションでもスタイルというのは確立したもの、変わらないものをいうようです。食事でも日本食というスタイルを大切にしていきたいものです。

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